思ふこと

日記的な雑記です

DIE WITH ZERO を読んだ

前々から気になっていた DIE WITH ZERO を読んだ。 下記感想文

Positive Points

本書の基本的なメッセージは「豊かな経験に投資せよ。そのため持ちうる金をなるべく多く使い切って経験に変換せよ。最も効率的に金を経験に変換できれば、死ぬ時点では 0 円になることが期待される」というものである。

大筋はこのメッセージであり、前半の数章はほぼこの内容を視点を変えながら説明している。 お金を死後に持ち越すことは不可能なため、最大効率でお金を使えという点についてはゲームライクな考えだが共感できる。

後半は上記の実行にあたり、一般的に障壁となるいくつかの点(老後資金、相続、人生でのリスクの取り方など)について説明している。 健康や体力を考えて適切なタイミングで消費をするべきであるとか、人生の残り時間を考えてやりたいことを計画するべきといった話は別の自己啓発系の本でもよく書いてあることであるので割愛する。

特に、新たな視点を得られたのは下記の点。

今できる経験を2回するために 10 年待つべきか

この説明は「ルール 6 年齢に合わせて金、健康、時間を最適化する」での「今、金を使うべきか迷ったら」からの一文なのであるが、現時点でお金を使わない場合、そのお金を年率 8% で運用した場合に 10 年で 2 倍になるという計算から導かれている言葉である。

8% というのは正直高すぎる年率だが、この視点は言われてみればがかなり具体的で、かつ自分が消費行動を起こす上で10年経った後に同じことを2回やりたいのか?と自問自答する良いベンチマークになりそうだ。

思い出の配当

普段なんとなく感じてはいたものの、より具体的に言語化された説明が読めてクリアになった。

豊かな経験はその後の人生でその折ごとに配当を発生させるため、なるべく早く経験した方が良いという説明は腑に落ちる内容だった。 今この時間を大切に、この瞬間に体験できる/すべきことに金を投じるべきで、早ければ早いほど配当の福利が期待できるという話。 これまでもなるべくこの原則に従っていたつもりではあったが、改めてこの原則の理論について学べた点は良かった。

長寿年金

そもそもこの金融商品を知らなかった。トンチン年金とも言う。というか日本の国民年金って実態は違えど利用者側からするとほぼこれに近いんじゃないだろうか。と思って調べたが、公的年金は制度や支給額の決定を国が変更できる点でトンチン年金とは異なるという説明があった。それはそう。

www.blackrock.com

長寿になる可能性に対する保険として、事前に保険金を積み立てることで死ぬまで一定額を受け取れるといった保険らしい。 日本では保険控除も効くので、長寿に対する不安がある人にはよさそう。

www.jp-life.japanpost.jp

ただ、実際に中身を見てみると個人的には自分で運用した方が良くない?と思ってしまう内容ではある。ただし老後はそもそも運用について正しく理解できるほど脳がまともな状態で維持できているか心配なので、これは一つの方法としてはありだろう。

今、必要としている人に金を渡すべき

まだ私自身はその段階にはないが、「死後に資産を譲ってもそのお金はより以前にもらった場合に比べて良い効果を発揮できない」という主張 これは相続/寄付の文脈で語られるがそれはその通り。という話が書いてあるので、自分がより年齢を重ねた時(早くとも 50 歳以降かな?)に改めて考えていきたいところである。

人生を振り返ったとき、オフィスで長時間を過ごさなかったことを後悔する人などいない

知ってた。

オフィスに行くことで良いこともあるが、なるべく最小化していきたいと改めて再確認。 今は幸いにもリモートワークで働けているが、今後出社が必要になった時、また改めて考えていきたいところ。

ちなみに本書は働くことが生き甲斐となっている人々に対してそれ自体は否定していないが、仕事と稼いだ金使った異なる経験を得る機会のバランスをとるべきであるというのは再三説明されている。

Caution points

給料が右肩上がりの前提

本書は給料が右肩上がりの前提であり、かつ歳を追うごとに若い頃の何倍も稼ぐといったような語り口で書かれているように見える。 もちろん「全ての人がそうではない点は注意してほしい」という注意書きがあるものの、実際には自分の給与上昇率を加味した上で消費行動に移るべきである。

具体的なメソッドの話が薄い気がする

本書は主に考え方については深く掘り下げられているが、では実際にどのように支出を計画すべきであるかというのはあまり詳しくないという印象だった。

具体的に死までに自分に訪れる週末の数を概算しろだとか、45~60歳の間に資産を崩し始めるべきなどの説明はあるのだが、具体的に、どのような計算式で、どのように資産を取り崩すべきなのかというのは少し解説が薄い。 老後に必要な資産を概算するための方法は説明されていた気がするが、これもかなりアバウトだと感じた。

筆者は億万長者

若い頃は違ったのかもしれないが、本書執筆時点で非常に経済的に裕福な著者の意見である。 もちろん、著者はその事をある程度自覚した上での万人に向けたアドバイスとして記述しているが、読者が同様に経済的に余裕があるかは別である。

FIRE と比べて

FIRE(financial independence, retire early) の原著も読んでおり、私個人は資産運用モチベーションの源泉として今でも良い本だと思ってる。

単純に本の内容で言えば、FIRE 側は具体的な節約方法や資産形成上の計算も詳しく記載があり、かつ非現実的な年率などで計算していない点が本書と比べると好印象だと改めて感じる。

FIRE は主に人生の前半について話をしており、DIE WITH ZERO は主に人生の中期~後期の話をしていると個人的に考える。 FIRE の主張ではとにかく早期に金を貯めてリタイアし、やりたいことはその後やる、といった考え。対して DIE WITH ZERO では若さやライフステージごとにしかできない経験というのを非常に重要視している点で異なる。

ただここも FIRE 側の本は注意点があって、FIRE の作者は(日本基準から見て)非常に高給の仕事を夫婦で実施しており、また質素な生活を組み合わせることで 30 代中盤に Fat FIRE(100 万ドルの資産を形成)を達成している。そのため、彼らには若いうちに得るべき経験を後回しにしても、比較的早い段階でやり残したことに取り掛かる余裕があり、やりたいことリストを消化する時間と体力が十分にある。

FIRE では築いた資産を使っての平常の生活を行う方法については議論されているが、著者が若いこともあり人生の終盤については特に話されていないような記憶があり、そもそも本として対象にしている年代が少しずれている気がする。

また、先にも書いたが本書は給与が右肩上がりでキャリアアップが前提となっている。対して FIRE は一度資産さえ築けば、自分のキャリア状況に関わらず資産による配当で生活ができるという点がある。 もちろん、資産が大幅に目減りする大恐慌が来るといった場合も考えられるのでどちらも弱点はある主張だなと思いつつ、不透明な未来に対して FIRE の方が若者にウケてるのはなんとなくこの給与右肩上がり前提が共有されていないことが理由にあるだろう。

個人的にはどちらの考え方も理解でき、そもそもの発想や話をしている時間軸からして直交している部分があるだろう。 唯一コンフリクトしそうな点は若いうちは金をつかって経験を積むべきという主張と、若いうちに節約して原資を貯めるべきという主張が食い違うことだろうか。 ただ、FIRE 側も、必要な息抜きはすべきだし、何にお金を使うかをよく考えよ(余計な贅沢品に金を使うな)という主張と理解しているので、若い頃の出費については概ね考え方としては本書と一致しているかもしれない。

自分の人生を最適化する

個人的には FI(financial independence)の夢は捨てきれていないが、全ての消費判断に「FI を先送りにしてもやるべきか?」という自問はしながら消費判断をするのはしんどいと感じている。 昔から買い物には頭を悩ませる方ではあったが、最近はその傾向に拍車がかかっている気がする(除く漫画)。 一方で、昔ほど色々なものが欲しくは無くなっており、本書に記載の「やりたいことの賞味期限を意識する」に近い記載の状況を若干感じ始めている状況。

実際に今が一番若いので、その時点でできることを精一杯楽しむこと自体は問題ないだろう。 じゃあ具体的にどの程度毎月出費を許容するのか...という話だが、結局ここが個人の悩みどころとして本書では特に解決策が示されていないのが難点だと思う。

ただ、人生に必要な出費をあらかじめ試算することが、浪費可能性についての解像度を上げる手助けとなるだろう。 まずは人生の見通しをつけるところから始めるべき。と思うが...普通に3年後どうなってるかもよくわからないよ人生なんて...と思うのもまた事実。

結局、何もわからないので、ほどほどに今を楽しむのが良いだろう。